駆け出しコンサル日記。

働いていく上で役にたちそうな事柄を、備忘録的にまとめていきます。(データ分析、財務分析、金融etc)

(データ分析)イベント・スタディ ~ イベントが企業価値に与える影響を計る~

今日は、Fama, Fisher, Jensen and Roll (1969)*1にて使用されてから、ファイナンスの実証分析での地位を確立したイベントスタディ(Event study)の要点を整理していきます。

 

これは、不祥事やリーマンショック等、何かイベントが発生した際の企業価値への影響を調べたい、そんな時に使われます。

例えば、以下のように。

  • 企業がイスラム債権 or 通常の債権を発行した際の、企業価値に与える影響*2
  • M&Aが企業価値に与える影響*3
  • 不祥事やリコールが与える影響*4

 

方法論

では、どのように計測するのか。簡単に言えば、『実際に起こった状態』と『起こらなかった状態』を比べてやればいいんです。しかし、『起こらなかった状態』は現実には観測出来ないので、過去のデータから推定してやります。
この際、企業価値の変動は株価の変動で測ります*5


具体的には

  1. 影響を与える期間を設定する
  2. 推定するモデルを決めて、『起こらなかった状態』を推定する
  3. 『実際に起こった状態』と2. を比較する
  4. 仮説検定する
  5. 解釈する

の5ステップです。

 

1. 影響を与える期間を設定する

ここでは、推定ウィンドウ/イベントウィンドウと呼ばれる、推定する為の期間と、イベントの影響のある(=比較する期間)を決めてやります。よく見るのは、イベントウィンドウがイベント日を含む前後2日(合計3日)で、推定ウィンドウはそれより180日前まで。

 

2. 推定するモデルを決めて、『起こらなかった状態』を推定する
3.『実際に起こった状態』と2. を比較する

通常ではマーケットモデルと呼ばれるモデルを使用します。要は、y=ax+bに株価をあてはめて、過去の株価から推定しましょう、というものです。
推定するモデルは、Fama-Frenchの3ファクターモデル*6が良い気もするのですが*7、意外にも単回帰モデルを使っている論文が多いように見受けられます。

以下は、3ファクターモデルでの例です。影響の大きさを代替しているのが『累積アブノーマルリターンCAR』です。

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この時、ARを標準偏差で割って、調整しているものも散見します。そうする事で、各異常値を標準化することが出来ます。
一見複雑そうに見えますが、Excelの重回帰分析を(1)にしてやり、αハット等を求め、(2),(3)をしてやるだけです。

 

4. 仮説検定する

ここでは、異常リターンが実は0なんじゃないか、という帰無仮説に沿って検定します。具体的には、イベントウィンドウにおける異常リターンの分散を出して、イベントウィンドウの日数だけ掛けてやる。そして、CAR/標準偏差=t として、t検定を行います。

 

5. 解釈する

イベントスタディで求めた累積アブノーマルリターン(CAR)は企業価値への影響として解釈することが出来ます。例えば、イスラム債権(Sukuk)を発行した企業のCARがマイナスであれば、イスラム債権の発行は企業価値に対して負の影響がある、と結論づける事が出来ます。
しかし、株価というのは市場がつけるものだと考えられます。なので、これは私の勝手な解釈であり、本質的には同じことですが、市場がどのように反応したかの代替変数として解釈したほうがしっくりくる気がするのです。

 

 

補足

市場がウィークフォームであってもイベント・スタディは有効だそうです。*8つまり、ある程度市場が非効率だとしても、イベントスタディは使えるという事です。そういった意味では、結構パワフルな分析ツールと言えます。

*1:Fama, E., L. Fisher, M. Jensen and R. Roll, 1969, “The adjustment of stock prices to new information,” International Economic Review 10, 1-21.

*2:Turk-Ariss, R., & Weill, L. (2013). Sukuk vs. Conventional Bonds: A Stock Market Perspective. Journal of Comparative Economics.

*3:松尾浩之、山本健 (2006)、「日本のM&A -イベント・スタディによる実証研究-」 経済経営研究 Vol.26, No.6

*4:小佐野広、堀敬一 (2006)、企業の不祥事と株価パフォーマンス、Research Paper No. 05006、立命館大学ファイナンス研究センターや、Hoffer, G.E., S.W. Pruitt, and R.J. Reilly (1988), “The Impact of Product Recalls on the Wealth of Sellers: A Reexamination,” Journal of Political Economy, Vol. 96, 663-670.

*5:これは、株式時価総額は企業価値を表している、というコーポレートファイナンスの大前提に寄っています。

*6:詳しくはFama, E. F and E.R. French (1996), “Multifactor Explanations of Asset Pricing Anomalies,” Journal of Finance, Vol.51, 55-84.を参照

*7:規模と簿価時価比率の要因を追加することで、通常使用される市場モデルよりも当てはまりが強いと言われている(Bodie, Z., A. Kane and A.J. Marcus (2009), “Investments 8th edition,” McGraw Hill Education (邦題「インベストメント」 日本経済新聞社

*8:Brown, S.J., and Warner, J.B. (1980), “Measuring Security Price Performance ”Journal of Financial Economics(8) 205-258