駆け出しコンサル日記。

働いていく上で役にたちそうな事柄を、備忘録的にまとめていきます。(データ分析、財務分析、金融etc)

ファイナンスの歴史を作った偉大な論文をまとめてみた

名前や理論自体は知っていても、いつどのように出現したのか知らないなぁと思い、ファイナンスの歴史を推し進めた、偉大な論文をここで整理して、ちまちまと読んでいこうと思います。ちなみに、引用元の数字はGoogle scholerを元にしており*1、その論文がどれだけの論文に引用されているかを表しています。個人的な関心にかなり引っ張られているので、ここに無いけど大変重要な論文もあるので気を付けてください。

 

投機の理論(1990)

Bachelier, L. (1900). Théorie de la spéculation. Gauthier-Villars. (引用元 3437)

悲劇の経済学者、ルイス・バシュリエです。彼の博士論文であり、英訳は「Theory of Speculation」。誰よりも先駆けて、ブラウン運動を用いて株価の予想をした人であり、金融に数学を持ち込んだ第一人者。アインシュタインよりも先にブラウン運動に関して発見している(しかし、ブラウン運動自体は1980年にThorvald N. Thieleという人が言及している。)当時のスーパーバイザーの評価は悪くなく、オリジナリティに溢れる、との評価を貰っていたが、金融と数学という組み合わせが余りにも異端だったが為に、学者としての生涯は決して華々しいものでは無かった。時代の先を行き過ぎた不遇の天才。

 

ポートフォリオ理論(1952)

Markowitz, H. (1952). Portfolio selection*. The journal of finance7(1), 77-91. (引用元 18826)

リターンにしか着目してなかったポートフォリオ理論に対して、「標準偏差をリスクの指標にしようぜ」と言って、現代のポートフォリオ理論を確立した博士論文の改訂版。経済学としてどうなの、として必ずしも博士課程の審査の時のウケは良い物でも無かった。ちなみに、彼よりも前に同様の論文がヨーロッパで出ていたが、英語じゃなかった為に埋もれていた。彼はこれでノーベル賞を受賞。

 

MM理論(1958)

Modigliani, F., & Miller, M. H. (1958). The cost of capital, corporation finance and the theory of investment. The American economic review, 261-297. (引用元 13697)

「企業が資金を集める手段として、株式を発行しようが負債を借りようが、企業価値には影響が無いよ」というのがこの理論。これでノーベル賞を貰っているが、その時の説明はとても明確、「ピザを切り分ける時に、どのような切り方をしてもピザの総量は変わらない。」でも、現実の企業はピザでは無いので、この理論は様々な過程の元でないと成り立たない。この2人もノーベル賞を受賞。

 

CAPM理論(1964)

Treynor, J. L. (1961). Market value, time, and risk. Unpublished manuscript, 95-209. (引用元 117)

Sharpe, W. F. (1964). Capital asset prices: A theory of market equilibrium under conditions of risk*. The journal of finance19(3), 425-442. (引用元 13525)

Lintner, J. (1965). The valuation of risk assets and the selection of risky investments in stock portfolios and capital budgets. The review of economics and statistics, 13-37. (引用元 8187)

Mossin, J. (1966). Equilibrium in a capital asset market. Econometrica: Journal of the econometric society, 768-783. (引用元 4055)

株のリスクを市場の動きから予測しようとしたのがCAPM理論。この理論で一番有名であり、ノーベル賞も貰っているのが上から2番目のウィリアム・シャープ。しかしながら、他に3人も独立して同様の事を考えていた。しかし、保険市場に関してだったりと、微妙に使いづらい理論だった為に、一番株式市場にうまくフォーカスを当てていたシャープが有名になった、模様。

 

ちなみに、マーコヴィッツからCAPMへの橋渡しとして、以下の論文も大切。

Tobin, J. (1958). Liquidity preference as behavior towards risk. The review of economic studies, 65-86. (引用元4572)

 

効率的市場仮説(1970)

Fama, E. F. (1970). Efficient capital markets: A review of theory and empirical work*. The journal of Finance25(2), 383-417. (引用元 13466)

「株価というのは市場に出回っている全ての情報を折り込んでいるよ」という理論。その度合いは3段階(ストロング・セミストロング・ウィーク)に分かれている。Fama-Frenchの3ファクターモデルでFamaは有名だけど、彼のノーベル賞受賞の理由はこっちの成果。

 

レバードβ(1971)

Hamada, R. S. (1972). The effect of the firm's capital structure on the systematic risk of common stocks. The Journal of Finance27(2), 435-452. (引用元 903)

アナリストの勉強をした事のある人なら誰でも知っている、レバードβの求め方を考えたのがハマダさん。
これは、企業の財務リスクを事業リスクから切り離す手法。つまり、負債の無い状態のβから、負債のある状態のβを求めるのがこれ。これを応用する事で、非上場の会社のベータを求める事が出来るので、バリュエーションの世界では大流行り。ちなみに、ハマダさんなので日本人だと思いきや、日系3世。それでも、日系の血がレバードβを考えたと思うと、感慨深い。

 

ブラック・ショールズ方程式(1973)

Black, F., & Scholes, M. (1973). The pricing of options and corporate liabilities.The journal of political economy, 637-654. (引用元 25538)

かの有名なブラック・ショールズ方程式。ブラック・ショールズ・マートン方程式と書かれることもある。株価をよく分からない複雑な何かでコネコネして求めましょう、というのがこの方程式。その中枢には「伊藤の補題」というのも関わっているので、デリバティブの教科書にはItoの名前が必ず出てくる。ちなみに、ショールズとマートンはノーベル賞を貰ったが、ブラックの方は先に没してしまったので、残念ながら貰えなかった。

 

プリンシバル-エージェント問題(1973)

Ross, S. A. (1973). The economic theory of agency: The principal's problem.The American Economic Review, 134-139. (引用元 3828)

「経営陣と投資家で軋轢が起こるで」という理論。組織の経済学やコーポレートファイナンスでは大切な理論。「経営者は自分のお金じゃないのでリスクを追いたがるが、債権者はリターンが固定されている為に、安全に経営してほしい」と、お互いに関心が違うので、うまくガバナンスしないと企業は機能しないよ、ということ。ちないに、イスラム金融ではこれがむっちゃ問題となっている。

 

リアルオプション(1977)

Myers, S. C. (1977). Determinants of corporate borrowing. Journal of financial economics5(2), 147-175. (引用元 9552) 

「未来の選択肢には価値があるよ」というのがリアルオプションであり、この概念に名前を始めたのがMyers。彼の事はMBAで大好評の教科書「Principle of Corporate Finance(邦題:コーポレートファイナンス)」の共著者として知っている人は大勢いると思うのだけど、こんなに凄い事をやっていたとは存じなかった。ちなみに、APVやペッキング・オーダー理論もこの人。実は凄い。

 

プロスペクト理論(1979)

Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica: Journal of the Econometric Society, 263-291.  (引用元 30278)

「人は不合理であり、リターンとリスクは同じ尺度で測れない」というのを示したのがこの二人。とても仲が良い。カーネマンはノーベル賞を貰ったが、トベルスキーは先に没してしまっていたので貰えなかった。引用数が3万越えと、恐ろしい程に大人気。

 

ペッキング・オーダー理論(1984)

Myers, S. C., & Majluf, N. S. (1984). Corporate financing and investment decisions when firms have information that investors do not have. Journal of financial economics13(2), 187-221. (引用元 13081)

「経営者は自己資金・株主資本・負債の順で使いたがるよ、だって自分達の自由に出来るから」というのがこの理論。言われてみればその通り。

 

ファマ‐フレンチの3ファクターモデル(1993)

Fama, E. F., & French, K. R. (1993). Common risk factors in the returns on stocks and bonds. Journal of financial economics33(1), 3-56. (引用元 13210)

Fama, E. F., & French, K. R. (1996). Multifactor explanations of asset pricing anomalies. The journal of finance51(1), 55-84. (引用元 4749)

CAPM理論じゃちっとも予測出来ないよ、という事で実証分析が大好きなFamaとFrenchが「投資収益率と株価純資産倍率の2つのファクターを加えたら、予測精度が上がったよ」と発表したのがこの論文。理論的な裏付けは出来ていないが、予測精度が高まっちゃっているのでぐうの音も出ないのがこのモデルの凄いところ。

*1:数字は2014年9月23日現在