(金融)「長期投資は素晴らしい」って本当?
投資信託や株式運用に触れていると必ず登場するのが「長期投資」に関してです。そして、運用会社や入門書では長期投資は良い物として扱っています。
例えば、以下の本は題名からズバリです。
また、
この本はコーポレートファイナンスの入門として、ブリーリー・マイヤーズの「コーポレートファイナンス上下」への取っ掛かりとして、最適な書籍なのですが、それでもこんな図がありました。
他にも、かの有名なマルキール「ウォール街のランダム・ウォーカー」にも、
『投資対象を保有し続けられる期間が長ければ長いほど、ポートフォリオに占める株式の割合を高めるべき』
との記述があります*1
たしかに、『長期で保有していれば、マイナスな時もあればプラスの時もあり、平均すればプラマイ0の低リスクが実現する』と言われれば、納得しそうになります。*2
では、果たして長期投資は良いことなのでしょうか?
時間分散の誤謬
結論から言うと、間違いです。
細かい理論に関しては、
- Zvi Bodie (1995) "ON THE RISK OF STOCKS IN THE LONG RUN", the Financial Analysts Journal, p.18-22
- 浅野幸弘 「リスクの時間分散効果」
上記のペーパーが分かりやすいです。Zvi教授の論文はこの分野を切り開いた論文です。また、Zvi教授の書いた下の教科書達にも同様のことが言及されています。
- 作者: ツヴィ・ボディー,アレックス・ケイン,アラン・J・マーカス,平木多賀人,伊藤彰敏,竹澤直哉,山崎亮,辻本臣哉
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: 単行本
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↑のp. 197
- 作者: ツヴィ・ボディ,アレックス・ケイン,アラン・J・マーカス,堀内昭義
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2003/12/17
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
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↑の p.268*3
以上を参照して貰えれば、理論的にしっかり反論されているので、ここでは分かりやすく噛み砕いて説明してみます。
コインゲーム
表が出たら1万円、裏が出たら-1万円のコインゲームを仮定します。
この時、何回も繰り返して行った結果、下図のようになったとします。
右側に注目して貰うと、最初の頃は表の出る確率にバラつきが見られますが、回数を重ねていくことで期待値である50%に近づいている*4のが分かります。一見するとプラマイ0になっているように考えてしまいそうですが、取得金額を見ると、大変なことになっていることに気付きます。
図にすると、こんな感じです。
最初の頃は①の幅しか結果がぶれませんでしたが、3回やると②の幅にまで可能性が膨らみました。回数(年数)を重ねれば重ねるほど損をしていく可能性も増えていくという事ですね。
このように、よく考えたら当たり前のように間違っている理論も、平然とこの世にまかり通っています。知らないと騙されるので、気を付けてください。
*1:しかし、大御所マルキールがこのような間違いをずっと放っておくのも変ですし、この場合は国債との比較優位での文脈ともとれます。
*2:ちなみに、先輩に呼ばれた大学時代の合コンに信託勤めの女性がおり、朝方のカラオケで長期分散について熱く語られたことがあります。その時に、待ってました!とばかりに、標準偏差と標準誤差の違いから淡々と反論してしまい、大変ひかれてしまった思い出があります。「すごーい!って言われる事を期待していたのですが、人々は論理だけでなく、感情で動く生き物なのでした...
*3:これは上記の本の第2版なので、同じ事に触れているのは不思議ではないのですが、時間分散に関する付録が最新版では削られてしまっているので、少し古くても、こちらの方に目を通すのをおすすめします。和訳もこちらの方が分かりやすいですし。
*4:ご存知、大数の法則です